恋はしょうがない。〜職員室の新婚生活〜
どこからともなく誰かの足音が近づいてくる…。
その人物が生徒会室のドアの向こうを通り過ぎていく間、二人は抱きしめ合ったまま息を潜めた。
足音が遠ざかると、それに触発されるように、真琴の方が先に口を開く。
「……私は教師ですから、どうしても生徒たちと一緒に、修学旅行に行きたいんです」
真琴は、有紀やその他の自分のクラスの生徒たち一人一人を思い浮かべながら、密やかに、でも思いを込めて古庄に訴えた。
懐から囁かれた言葉を聞いて古庄も、ドアの擦りガラス越しの明かりに浮かぶ真琴の顔を見下ろした。
「君が頑張って無理をしているのを見るたびに、…俺の心臓の方が止まりそうになる。そんなんで、修学旅行なんて行ってしまったら…」
憂いに満ちている表情でさえ、端正で美しいほどの古庄に、真琴は状況も忘れて思わず魅入られる。
その憂いの源は、誰でもない自分とこの体のことだと覚り、真琴も目を逸らさずにじっと古庄を見つめた。
「…あなたが一緒に行ってくれるから、私は安心して行けるんです。あなたはこのお腹の子の父親ですから、何があっても私たちを守ってくれるでしょう?」
真琴の言葉に、古庄の思いつめた顔が少し変化した。