恋はしょうがない。〜職員室の新婚生活〜




「…そ、そう言えば、私も今日の授業の準備が終わってないんです。早く行かなきゃ!」


真琴はバタバタと走り回り、すぐに着替えを済ませると、洗面台へと向かった。


「…それじゃ、俺は先に出るよ」


そう声をかけられても、顔を洗っている真琴は返事もできない。

古庄は自分の荷物を携え、玄関のドアから外に出ようとしたその時、


「…そういえば、昨日教室で…」


と、心に引っかかっていたことが口を衝いて出た。



「…え?和彦さん?まだいたんですか?」


顔を拭きながら、真琴がひょっこりと顔を出して見せる。

その一点の曇りもない顔を見て、古庄は口まで出かかっていたことを引っ込めた。


「ああ、うん。行ってくるよ」


「行ってらっしゃい…って。また職員室で、すぐに会いますよね」


真琴はそう言いながら笑ったが、古庄はほのかに口角を上げて応えただけで、とても同じように無邪気な笑みを返せなかった。



真琴のアパートを後にして、自転車に乗りながら古庄は考え込む。


真琴には事実を、ありのままに伝えておくべきだろうか…。
昨日の教室でのキスを、佳音に目撃されていたという事実を…。




< 264 / 343 >

この作品をシェア

pagetop