恋はしょうがない。〜職員室の新婚生活〜



ある日の放課後、そう佳音に声をかけてきたのは、クラスメートではなく、真琴のクラスの有紀だった。

有紀とは同じ中学出身で、取り立てて仲がいいわけでもなかったが、お互いよく見知った間柄だ。


佳音は黙って立ち止まり、戸惑ったように有紀を見つめ返す。



「いい?手伝ってくれる?」


有紀は佳音の顔を正面から見つめて、有無を言わさない勢いで尋ねてくる。


「……うん」


その勢いに押されて佳音が頷くと、有紀はすかさず佳音の手を取って駆けだした。
もちろん有紀のその行動に佳音は驚いてはいたが、心を少し逸らせながら、何も言わず付いていった。



連れて行かれたのは、被服室。

数人の女子生徒と家庭科教師の平沢が、一つの作業台に頭を寄せ合って何かをしている。


「佳音ちゃん、連れて来た!」


有紀の一声に、皆の視線が佳音へと集まる。
その中には、この前の非常階段で、佳音を懸命に説得したクラスメートの顔もあった。

佳音の戸惑いはますます深くなり、その表情に困惑の色が浮かぶ。


恐る恐る作業台の側に寄り、覗き込んでみると、その上には裁断されかけた光沢のある白色の布地が広げられていた。



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