ふわふわ。

「お疲れ様~。やっと会議終わったよ。残りどれたけ~?」

咲良さんが居残りメンバーに進捗を聞いている間。

私は倉坂さんに、出来上がったレジュメを渡しに行く。

「ありがとうございま……」


受け取ったレジュメに違和感があったのか、倉坂さんの動きが一瞬止まる。


「確認して頂けますか?」


にっこり微笑めば、倉坂さんはすこーしだけ。
本当にすこーしだけ、上目遣いに私を窺って、レジュメをパラパラとめくりだす。


「…………」


「…………」


少し。
ほんの少しだけ、指示を守らず作られたレジュメ。


それを見終わって、倉坂さんの表情が微かに変わる。



「……さすがです」



わ……


笑っ……。



「惚れ直してもいいですか?」

「今は仕事中で、一言多いです」


憮然とする私に、少しだけ目が優しく笑ってる倉坂さん。


「ですが、仕事以外で話しかけられないではないですか」

「自業自得でしょう」

「確かに。噂の人に祭り上げるつもりは無かったのですが」


なんのつもりだったのか。


「少しは牽制になるでしょう?」


牽制?


無表情に戻った倉坂さんが、いつもの残業メンバーを見てから、また私を見上げる。

「他の異性に、横からちょっかいだされるのは、いささか腹に据えかねる」

「私はそんなにモテませんて」

「そういう事にしておきましょう。作成ありがとうございました。また、頼んでも良いですか?」

「いつでもどうぞ。だいたい、倉坂さんは一人でやりすぎですよ。任せられる部分は任せた方が効率的です」

無表情に肩を竦めた倉坂さんから離れて、デスクに戻った。


< 30 / 57 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop