偽装シンデレラ~続きはオフィスの外で~
「それが…伊集院敦司総理の所信表明演説の第一声だったらしい。俺はその言葉を幼い頃…父さんから訊いた。俺の両親は共に社長。金銭的な苦労はしたコトがない」

「柚希さん・・・」

「俺は彩名の病を治す為に医者を志したが…彩名は9歳で亡くなってしまった。母さんの言う通り…俺は生きる屍となった。でも、高校2年の時…学校の講演会でイラクのサマワの総合病院で、医療の支援活動した陸自の医官の方の話を訊く機会があって…」

柚希さんは水割り一口飲み、話を続けた。

「優秀なスタッフが居ながらも、医療技術は後進国でね。日本では救えても、イラクでは救えない命が沢山あったらしい。俺はその講演会をきっかけに…防衛医科大に入学して医官を目指した。この国の医療は世界でも高水準。俺は父さんから学んだ『ノブレスオブリージュ』の理念を基に、人とは違う医者になろうと思った。自衛隊の人道的支援を通じて医療後進国の人達の命を救おうと考えた。でも、俺を『ソーマ』の後継者に考えているお爺さんに邪魔をされて、その志も半端のまま終わってしまった」

「でも、柚希さんは…中央アフリカに…?」

「行きたいよ。でも…多分行けないだろう。俺はあえて危険な場所に行こうとしているけど…母さんの言うように死に場所を求めてるワケじゃない。俺は唯医者として多くの命を救いたいだけなんだ」


「柚希さんのおキモチをハッキリとお母さんに伝えてあげて下さい」

「伝えても、貴方が行く必要ないと言われるだけだ」

「そんなコトはないと・・・」

「相馬家の人間は判ってくれない。俺のキモチを理解してくれるのは父さんだけだ。でも、父さんは相馬家の婿養子だ。立場的に弱いから…キツくは言えないのさ」

「柚希…さん」

「君が俺と結婚してくれるなら…納得してくれるかな?」

「私は…」

「君は稜真にホンキらしいな・・・」







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