偽装シンデレラ~続きはオフィスの外で~


「言いたいはそれだけ?柚希さん」

「そうだな」

柚希さんは額に零れた前髪を掻き上げて背中を向ける。

「じゃあな。稜真」

柚希さんは不遜な声で遠ざかって行った。

俺はその場に蹲った。久しぶりに過呼吸を起こす。

「大丈夫ですか?」と看護師が俺の元に歩み寄る。

「大丈夫…です…直ぐに…おさまります」

息苦しくて死にそうになりながらも言葉を紡いで、立ち上がった。

俺の全てを変えたのは姉貴の死と柚希さんの存在。

あれは家族で蓼科の別荘に訪れた時の話。
俺達は河川敷でバーベーキューを楽しんでいた。
俺と姉貴は家族から離れて川遊び。心臓の弱かった姉貴は川に入った俺を岸で羨ましそうに見学していた。
7歳の俺は川の流れに足をすくわれ転倒し、そのまま深みにカラダを囚われて溺れてしまった。
姉貴は慌てて助けを呼ぼうと無理に父さん達の元へと走り、発作を起こした。

俺は近くに居た釣り人の男性に助けられたが、姉貴はそのまま帰らぬ人になった。
享年9歳だった。


「稜真!!お前のせいだ!!俺と彩名は結婚の約束していたんだぞ!!」
父さんも凄い剣幕で俺を叱り飛ばした。そして、柚希さんも俺を責めた。
兄貴が俺と柚希さんの仲介に入ったが、それでも柚希さんの怒りは収まらなかった。
冷静な柚希さんがキレたのはそれが初めてで…
俺も悪いと思っていたから柚希さんに必死に謝った。


「俺は一生結婚しない!!それでいい?柚希」


「ああ、嘘じゃないだろうな…マジで一生結婚するなよ!!稜真」

俺が好奇心で川の深みに行って溺れたばかりに姉貴は死んでしまった。













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