最後の恋の始め方
***


 「……それでさ、××ったらね」


 この夜は山室さんと電話で話していた。


 和仁さんは今宵もディナーショーのため不在。


 家で一人で過ごしていた私は、そろそろ寝る準備をしようとしていたところ、山室さんから電話がかかってきた。


 職場の飲み会があって、さっき帰宅したところだと告げる。


 日付が変わらないうちに、ギリギリ帰宅できたと。


 「夜遅いからメールにしようかと思ったんだけどね。でも理恵ちゃんの声が聞きたくなって」


 「お仕事、ご苦労様です」


 とっさに話題を変えると、そこから世間話に移っていった。


 ふと、山室さんと同期だった男子学生の話題になった。


 つまり佑典とも同期。


 私とはさほど交流はなかったけれど、学科は同じなので名前は知っていた。


 その人が今、海外放浪の旅をしていると。


 私たちは文系の学部なせいか、普通に就職する人、大学院に進む人の他、時々ユニークな進路を選ぶ人がいる。


 現に私の一期先輩のこの人は、学生時代にバイトで貯めたお金を元に、世界放浪の旅に出たとか。


 「それで××がひょっこり、佑典の元に現れたんだって。突然メールが来て驚いたって話してたよ」
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