最後の恋の始め方
 先輩の気持ちが分からない。


 うぬぼれかもしれないけど、そう勘違いさせるような場所に、私を二人きりで誘うのは?


 いくらペア招待券を手にしたからって。


 「私……」


 「直接会って話したいこともあるし。このようなかしこまった場を設けるのもいいかと思ってね」


 「……」


 お断りしようと思った。


 このままだとますます、取り返しのつかない状況に自分を追い込んでしまいそうで不安だった。


 にもかかわらず。


 「分かりました。詳しい時間などを教えてください」


 誘いに乗ってしまった。


 先輩の私に対する感情はまだ疑惑の段階であり、電話で一方的に突き放すのもためらわれたので。


 はっきりさせるのは直接会って何か言われた際にしようと考えた。


 和仁さんとのこともあるので、これ以上先輩との仲が深まるわけにはいかない。


 いずれにしてもディナーの席で、万が一先輩のほうから何か言ってきた場合ははっきりさせておこうと思った。


 ただし理由を聞かれたら……?


 佑典の父親である和仁さんとの関係を、私は山室さんに打ち明けることができるのだろうか?


 それだけが気がかりだった。
< 120 / 162 >

この作品をシェア

pagetop