最後の恋の始め方
 だが……。


 「ごめんなさい!」


 理恵は再度山室に背を向けた。


 「理恵ちゃん!」


 理恵が戻ったのは僕の元。


 山室の手を取れば、平凡な幸せを得られるであろうことは分かっていたのに。


 にもかかわらず理恵は。


 「理恵ちゃん。これ以上の不幸を招き寄せるような真似はやめるんだ」


 「ごめんなさい」


 理恵のこの一言の謝罪は、僕と山室、男二人に対して向けられたと思われる。


 山室に対しては、せっかくの真心を無にしなければならないことに対して。


 僕に対しては、そばにいたいとは切望しているにもかかわらず、この期に及んでもそれを言葉で示せずにいることを。


 そして……聞こえるわけはないのだけど、はるか海の向こう佑典に対しても。


 「佑典には言わない」


 山室が突然佑典の名前を出したので、さすがの僕もびくっとした。


 「佑典にはこのことは伏せておく。だけど俺は絶対に、理恵ちゃんの選択を受け入れることはできない」


 「山室さん……?」


 「君をこのまま間違った方向に歩かせたまま、あきらめるわけにはいかないから」
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