最後の恋の始め方
 「私、そんな……」


 理恵にそんなつもりはなかったとはいえ、もし山室が強引に理恵を……などという展開になっていたら?


 そう考えて、理恵は今になって怖くなったようだ。


 「よかった。理恵が自らあの男を断ってくれて。それにしてもあいつもかなりの暴走野郎だね。理恵の相手が大学関係だとか、不倫だとか。推理がまるっきりはずれまくりだった。転職するとしても、探偵には絶対になれないな」


 「私たちの会話、聞いていたんですか」


 まさか僕に聞かれているとは思わなかったようで、理恵は恥ずかしそうに俯く。


 「聞こえちゃったんだよね。理恵の付き合ってる相手が、あいつの知ってる人か否か、ってあたりだったかな」


 「そうだったんですか」


 「でも本当に嬉しかった。僕の登場を待たずとも、理恵がきちんとあいつに断りの言葉を告げていたのを耳にした時は」


 喜びを行動で示すかのように、僕は理恵を抱きしめる腕の力を強めた。


 「和仁さん……」


 山室だけじゃなく、世界の誰もが僕たちを許さないかもしれない。


 でも今だけはこうして腕の中、温もりを確かめていたいと願った。


 「あ、雪が」


 理恵はそっと目線を空に向けた。


 夜空から雪の結晶が舞い降り始めていた。
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