波音の回廊
 チチチ……。


 柔らかな闇の中、耳に届くのは。


 小鳥のさえずり。


 心地よい目覚めから、私は徐々に意識を取り戻しつつあった。


 瞼の裏の色が、漆黒から白い闇へと変わりつつある。


 「……」


 私はゆっくりと瞼を開いた。


 「あ、気がつきましたよ」


 女の人の声が聞こえた。


 視界がぼんやりとした輪郭から、徐々に形作られてきた。


 「若様をお呼びした方が」


 今度は中年男性の声がした。


 「……?」


 私は周囲を見渡した。


 異国風の、こじんまりとした部屋の中。


 私はベッドに寝かされていた。


 枕元で、容器の水を取り替えている年配の女性と。


 ベッドの脇で診察道具みたいなものを取り出している、中年男性がいる。
< 18 / 260 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop