波音の回廊
 「瑠璃」


 地震に気づいた清廉は、ようやく泣き止んだ。


 「私を抱きしめてくれ」


 「な、何なの。こんな時に」


 私は応えられなかった。


 人を斬った清廉に対し、恐怖感を抱いたからではない。


 多数の屍が横たわるこんな場所で、そんなことをしていられないと感じたのも事実だけど、それ以上に。


 私は思い出してしまったから。


 あの日みつ子さんから教えてもらった、伝説の結末を。


 「昼間から恐怖の大王は、大地を照らし」


 「その光に狂った次期当主が、残酷な行為(両親と兄を殺す)を繰り返し」


 「次期当主の残虐行為に海の神は怒り、大津波を水城島に遣わして、島は海の底に沈む」


 「そして夜を迎え、何事もなかったかのように恐怖の大王は、嘲笑しながら夜の海を見おろし、そのまま姿を消していった」


 ……。


 この話から推測して。


 清廉が家族を殺した日と、海の神がお怒りになる日は同じ日!


 夜を迎える前に、この島は最後の瞬間を迎えてしまう!
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