波音の回廊
 「あのさあ、もう俺を見て泣くのはやめてもらえない?」


 声や見た目は清廉と変わりない。


 やはり清廉の生まれ変わりに違いないと、しみじみ感慨に浸っていると。


 「他のお客さんが、こっちジロジロ見るんだよね。知らない人がこのシチュエーション見たら絶対、俺が地元の女の子にちょっかい出して、母親が怒鳴り込んできたって思うでしょ? 恥ずかしいじゃん」


 声は同じなのに。


 話し方が違う。


 口調が違う。


 何もかもが違う……。


 私は両手で顔を覆って、大声で泣き始めた。


 「おいおい」


 「瑠璃、もう帰りましょう……。久遠さん、本当にご迷惑おかけしました」


 「いえいえ」


 途方に暮れる母と清春の存在を忘れたかのように。


 私はしばらくの間、その場で泣き続けていた。
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