Sweet Lover
「あれ、オカシイなぁ。
 キョーヤとのキスシーンがないじゃないっ! って共演女優に怒られたことはあるけど、逆はないんだけど。
 絶対怖くないから、俺を信じて任せてみない?」

テノールの声に、思わず気持ちが攫われそうになる。

「……ゴメンナサイ」

誰もが普通に出来ることが、どうして私だけこんなに出来ないのかしら。
しゅんとなって、下を向く。

別に響哉さんのこと嫌いってわけじゃないのに。

響哉さんが一瞬、息を呑んだような気がした。
沈黙が二人を包む。

気まずい空気に、いたたまれなくなってくる。

「……きょう……」

思い切って顔をあげた瞬間。ふわりと、優しさを溶かし込んだ笑顔を響哉さんが見せてくれた。

それは、今にも泣き出しそうな私の顔とはきっと、対照的。

「マーサ、一緒に夕食作ろうか?」

くしゃりと私の頭を撫でると、響哉さんはそう言ってキッチンに向かう。
私は慌てて後を追う。

料理に不慣れな私と、器用な響哉さん。

一緒に作った夕食は、それだけでものすごく、美味しかった。 
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