Sweet Lover
「結構です」

私は無表情に断った。
だいたい、今年クラスメイトになった長身のその男と私にはなんら接点なんてないし……。

「ふぅん」

にこり、と。
アイドル然したその顔に歪んだ笑顔を浮かべて、白石は私の腕を掴んだ。

「ねぇ、つれない事言わないでよ。
 俺、去年からずっとマーサのこと見てたんだし」

自分勝手な言い分に、ぞっとするような薄ら寒さを覚えた。

「思わないわよっ」

渾身の力をこめて睨む。
が、

「すぐに気は変わると思うよ? 俺、振られたことなんて一度も無いし」

なんていいながら、白石は私の腕を掴んできた。

こんなことなら、いくら近道だからって、人気(ひとけ)の少ない中庭を横切るのは辞めればよかったわ。

唇を噛むが、もう遅い。

私の腕を掴む白石の力は存外に強く、振り払うことなんて出来そうになかった。

「放してよっ」

「キスしてくれたら、放してあげる」

余裕を携えた笑みが、私に向けられる。


あー、もう!
誰よ、こんな男を振らなかったっていう女共はっ!!


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