Sweet Lover
どれもこれも、正しそうで違うような――。
つまり、推測と想像の域(いき)を出ないということ。

もっと現実的なことを考えたほうが良いのかも。

私はゆっくりと鼻で呼吸する。
とりたてて、特別な匂いは感じない。
強いて言えば、清潔な香り。

耳に入るのは、時計の秒針音くらい。

そして、肌にあたるシーツはのりがきいてパリッとしていた。


「ようやく静かになったか」

男の声に、びくりと、身体が動く。
じゃらりという、耳障りな音が冷たく響いた。


「騒げば殺す」

耳元で、ぞっとするような言葉を囁いてくる。
怯えた私は頷くことさえできなかった。
< 554 / 746 >

この作品をシェア

pagetop