Sweet Lover
まずは、家へ帰る。
……帰るっていうより、行くって行った方が適切なのかしら、と思うと、なんだか胸が詰まる。
家が近づくほどに、神妙な顔をして押し黙ってしまった私の頭を優しい手が撫でる。
私は思わず顔をあげた。
赤信号で止まった響哉さんは、漆黒の瞳で私を見る。
そうして、紅い唇で微笑んだ。
「やっぱり急に家を離れるなんて淋しいよね。
マーサにとっては大切な家族だもの。
……いいよ、家に戻っても」
「でも。
響哉さん、あんなに揃えてくれてるのに――」
響哉さんはなんてことない顔で、肩を竦めた。
「普段忙しくて、他にお金を使うようなこともないからね。気にしないで。
服はあのままプレゼントするし、家具は売り払っても構わない。
そうそう。
マーサの誕生日が来るたびに、買い揃えたぬいぐるみも押入れにしまってある」
「……毎年?」
「そう、毎年。
六歳までは日本に送り届けていたから、処分してなければマーサの手元にあるはずだよ」
「テディベア?」
私の枕元には、確かに七体のテディベアが並んでいる。
それは、亡き両親が買ってくれたものだとばかり思い込んでいたけれど……。
……帰るっていうより、行くって行った方が適切なのかしら、と思うと、なんだか胸が詰まる。
家が近づくほどに、神妙な顔をして押し黙ってしまった私の頭を優しい手が撫でる。
私は思わず顔をあげた。
赤信号で止まった響哉さんは、漆黒の瞳で私を見る。
そうして、紅い唇で微笑んだ。
「やっぱり急に家を離れるなんて淋しいよね。
マーサにとっては大切な家族だもの。
……いいよ、家に戻っても」
「でも。
響哉さん、あんなに揃えてくれてるのに――」
響哉さんはなんてことない顔で、肩を竦めた。
「普段忙しくて、他にお金を使うようなこともないからね。気にしないで。
服はあのままプレゼントするし、家具は売り払っても構わない。
そうそう。
マーサの誕生日が来るたびに、買い揃えたぬいぐるみも押入れにしまってある」
「……毎年?」
「そう、毎年。
六歳までは日本に送り届けていたから、処分してなければマーサの手元にあるはずだよ」
「テディベア?」
私の枕元には、確かに七体のテディベアが並んでいる。
それは、亡き両親が買ってくれたものだとばかり思い込んでいたけれど……。