Sweet Lover
けれども、話を続けないわけにもいかない。

『親は?』

動揺を押し隠すあまり、いつもよりずっと低い声になったことは否めなかった。

あら、と、朝香は無邪気に笑う。

『私に決まってるじゃない』

受け狙いなのか。
本気なのか。

佐伯は、新しい煙草に火をつけようかどうか、逡巡したがやめることにした。
さすがに、妊婦の目の前で煙草を吸い続けるほど、デリカシーと一般常識に欠けているわけではない。

仕方が無いので、深呼吸だけでなんとか動揺を鎮め、改めて問い直す。

『父親は?』

『まだ、伝えてないのよね。
 さっき分かって、取り急ぎ映画の件が気になって、まずここに来たんだもの。
 パパ、喜んでくれるかしら?』

――わざと?
  俺に伝えたくなくて、わざと話を逸らしてる?


佐伯は、朝香の屈託の無い笑顔を見ながら、ため息をかみ殺す。

気づけば、無意識のうちに、伸びた髪をぐしゃぐしゃと右手でかき回していた。
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