Sweet Lover
「そろそろ、映画が始まるわね。
 悪いけど、これとお弁当をもってここに行ってくれない?
 お弁当は、ここに来ているはずだから」

春花さんが略図と手順を書いた紙を渡してくれた。

『盗聴器の無い部屋だから、安心していいわよ。上映時間は2時間だから、自分の分も取っていって二人でゆっくり食事してね。』

紙の端に、そう、書き添えてある。

愛らしく全体的に丸みを帯びた文字はきっと、仕事中には使わない、春花さんの素の筆跡に違いない。


――でも。
  それは逆に、ここには盗聴器が仕掛けてあるという風にも取れた。

「そんな――、私が行きましょうか?」

隣の女性が顔をあげる。

「結構よ。
 引き続きモニターチェックをお願いね」

有無を言わせぬしっかりした口調。
そして、春花さんは、私にだけ見えるようにウインクを投げてくれた。

途端、キャリアウーマン然とした姿は崩れ、愛らしい女性に変わる。



――ほんの一瞬、だけれど。
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