Sweet Lover
「彼ほどの人であるなら、日本である程度成功して名前を挙げてから海外進出するほうがよっぽど楽なのに、あえて険しい道を選ぶところも、素敵ですっ」

その瞳は微熱があるかのように熱っぽく、語る声は恋に恋する年頃の少女のようにとろりとした湿っぽさを帯びていた。

――ただ。
  彼のその言葉を聞いただけでも、「須藤 響哉」の何も知らないことは良く分かった。

彼は『家』の都合上、日本で俳優になるほうがずっと難しいのだから。

オダほどの熱狂的信者でさえ、キョーヤ・スドーが何者なのか掴みきるのは難しいということなのだ。

須藤家の緘口令(かんこうれい)の完璧さに、私は心の中で舌を巻く。

「そんなに好きなら、どうして片っ端から迷惑ばかりかけるんだ?
 まさかその年で、好きな女の子のスカートを捲って、本当に気が惹けると思い込んでいるわけじゃないだろうに」

先生は、煙草に火をつけて、ため息とともに紫煙を吐き出した。
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