砂の鎖
「でも……」

「今の環境が良い物ではないのは分かっているね。高校生の女の子が二十代の養父と二人暮らしというのは……」

「あの人は、そういう人ではないです」


私が気まずくて下を向いても、私が桑山さんの言葉を遮るように言い返しても、桑山さんの表情は穏やかで紳士的で理知的で。

……いつだって、変わることは無い。


「君がそう思うのと周りが思うのは違うということだよ。そして周りの評価は思いのほか君の人生を阻むものだ」

「……そう、でしょうか……」


そしてこの人はいつも悠然と微笑む。

法外な額の香典を惜しみなく渡し、足繁くママが死んだ後の我が家に足を運び、私を養子にしたいと口にする立場ある人。
まるで足長おじさんの様な紳士。

その人がママとどんな関係にあったのか。
私とどんな関係があるのか……

そこに多くの答えは無い気がしていた。


「貴方が幼い頃から気心知れる人といる方が安心だと言う気持ちも分からなくはないがね、けれど彼が良心のある人間なら尚更、彼の人生も阻んでいるだろう」

「……」


桑山さんの言葉は、柔らかく切れ味の良いナイフの様で。

とても的確に私の心の柔らかい部分を綺麗に抉った。
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