砂の鎖
「……拓真は、知ってるの?」
私の声に、拓真は優しく微笑んだ。
「あずの父親については、俺も詳しくは知らないんだ」
「え?」
ママは拓真には全て話をしたのだろう。
そう思って覚悟を決めて問いかけた私への答えは酷く肩透かしなものだった
拓真が知っていると思ったのは私の勘違いだったのだろうか。
それともママと同じように、拓真も私に嘘を吐いているのだろうか……
「あずの本当の父親は、多分、宗也という名前の人」
けれど拓真はとてもあっさりと、大した事ではないとでもいうようにそう言った。
私が一度も聞いたこともない名前を。
「そう、や?」
聞いたことは無かった。
それでも、記憶のどこかに引っかかった。
「俺が薫さんと出会った頃は、あずはまだ小さかったしね。まだ、傷も癒えてなかったんだろうな……時々酔いつぶれた薫さんは泣きながらその人の名前を呼んでたよ……」
拓真は少し寂し気にそう呟いた。
私は酔いつぶれたママを見たことはない。
仕事柄、お酒の匂いをさせて帰ることが多いママ。
それでも滅多に酒におぼれる様なことは無かった。
それでも時々、例えば元々体調が悪かった時とか、忙しくて寝不足が続いていた時とか。
服も着替えずに寝てしまっていることはあった。
そんな時に、彼女がいつも握っていたもの。
それはあの、オイルライターだ。
あのシルバーのジッポー。
彼女がいつも、煙草に火をつけていたもの。
寝煙草をしたのかと、朝顔を合わせれば私はママを叱りつけて、ママは罰が悪そうに不貞腐れている事が時々あった。
「俺も薫さんから聞いたわけじゃないよ。薫さんが勤めていた店の店長に聞いた話。彼はあずが生まれる前に交通事故で亡くなったんだ」
そう。あそこに彫られていた文字は『sohya』だ。
私はずっと、ブランドの名前だとばかり思っていた。
あれは、ママが愛した男の名前だったのだろうか……
私の声に、拓真は優しく微笑んだ。
「あずの父親については、俺も詳しくは知らないんだ」
「え?」
ママは拓真には全て話をしたのだろう。
そう思って覚悟を決めて問いかけた私への答えは酷く肩透かしなものだった
拓真が知っていると思ったのは私の勘違いだったのだろうか。
それともママと同じように、拓真も私に嘘を吐いているのだろうか……
「あずの本当の父親は、多分、宗也という名前の人」
けれど拓真はとてもあっさりと、大した事ではないとでもいうようにそう言った。
私が一度も聞いたこともない名前を。
「そう、や?」
聞いたことは無かった。
それでも、記憶のどこかに引っかかった。
「俺が薫さんと出会った頃は、あずはまだ小さかったしね。まだ、傷も癒えてなかったんだろうな……時々酔いつぶれた薫さんは泣きながらその人の名前を呼んでたよ……」
拓真は少し寂し気にそう呟いた。
私は酔いつぶれたママを見たことはない。
仕事柄、お酒の匂いをさせて帰ることが多いママ。
それでも滅多に酒におぼれる様なことは無かった。
それでも時々、例えば元々体調が悪かった時とか、忙しくて寝不足が続いていた時とか。
服も着替えずに寝てしまっていることはあった。
そんな時に、彼女がいつも握っていたもの。
それはあの、オイルライターだ。
あのシルバーのジッポー。
彼女がいつも、煙草に火をつけていたもの。
寝煙草をしたのかと、朝顔を合わせれば私はママを叱りつけて、ママは罰が悪そうに不貞腐れている事が時々あった。
「俺も薫さんから聞いたわけじゃないよ。薫さんが勤めていた店の店長に聞いた話。彼はあずが生まれる前に交通事故で亡くなったんだ」
そう。あそこに彫られていた文字は『sohya』だ。
私はずっと、ブランドの名前だとばかり思っていた。
あれは、ママが愛した男の名前だったのだろうか……