砂の鎖
「薫さんは、ずっと彼を想っていたんだよ……」


驚いて私は目を見開いて拓真を見た。

それなら私の父親は、桑山さんでは、無い……?


「たく……」


拓真から更に詳しい話を聞き出そうと呼び掛けて、それでも呼びかけた言葉を飲みこんでしまった。

先ほどまでとても優しく懐かしむ様な表情をしていた拓真が、俯いてしまったからだ。

拓真は私から顔が見えないよう俯いて、両肘を食卓に着き頭を抱えた。
僅かに、肩が震えていた……


「薫さんが……」


拓真が明るく声を出そうとしたということだけは分かった。
いつも通りの声をだそうと、努力していた事だけは伝わった。

ただその努力は実を結ばずに、震えた声が私の心臓を締め上げた。


「俺のことを一瞬でも好きだったかなんて、俺には分からないな……」


ああ。拓真は……ママが好きなんだ。
本当に、好きだったんだ……

簡単に忘れられないんだ。

未来を望むのが幸せだと思えない程に。


拓真は今も、ママを愛しているんだ……

だから拓真は、私にも優しい……


その事実を突き付けられ、私の胸にも熱い感情の塊がこみあげる。



自分が何を言えばいいのかは分からなかった。

自分が何を思っているのかも分からなかった。

何を望んでいるのかも、分からなくなった……



ただ、私が望むものもまた、未来には無い。

それだけははっきりしている。


「……あのさ」


いつも私が声を出す前に、私に気が付き振り向く拓真が、私の声に反応すらしない。
その事実に苦しくなった。
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