砂の鎖
それなのに、私は自転車を引きながらとぼとぼ歩く。
視界が、滲んでしまって自転車を漕げそうにもない。


どれだけ冷静に、いつも通りに考えようとしていても、浮かんでくるのは真人の黒い瞳。
真人の言葉……

真人があんな風に、私を想ってくれていたなんて一度だって考えた事も無かった。
真人は私のことなんて忘れていると思っていた。
私が一方的に見つめているのだろうと思っていた。

私は一体今まで、真人の何を見ていたのだろう。


太陽の様な人だと思っていた。
決して手が届く筈が無いと思っていた。

眩しくて、目を細めて。
一度だって彼自身をしっかりと見つめたことは無かった。


私はずっと彼を見つめていたつもりで、ずっと彼の言葉を覚えていて。

そんな七年も前の出来事を口に出さない真人に、少しだけ裏切られた様な気にもなっていた。


裏切り続けたのは、私の方だ。

真人は全て気が付いていて、それでも黙って笑っていた……


一体私は何時間歩いていたのだろう。
ものすごく長かった様な気もするけれど、いつの間にか家の近くの住宅街を歩いていた。
驚きの様な罪悪感の様な、焦燥の様な倦怠の様な……不思議な感情がこみあげた。


いつの間にか太陽は完全に沈みあたりは真っ暗になっていた。

街灯がぽつりぽつりと道路にまだらの光溜まりを作る。
私はそれを避けて、まるで身を隠すように道を歩いた。
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