砂の鎖
見えてきたのは、門灯のあかりだった。
我が家のオシャレでもなんでもない古びた蛍光灯の灯り。


それを見た瞬間、まずい、と思った。
急に脳に血がめぐり出した様な感覚だ。

反射的にスカートのポケットに手を伸ばしスマホを引っ張り出せば、そこには不在着信を示すランプが点灯している。

怖くて件数も誰からかも確かめられずにもう一度ポケットに突っ込んだ。


私は夕食のメニューとか拓真の帰宅時間とか、とても現実的なことを考えているつもりでひとつもまともに考えてはいなかった。

門灯の灯りがついている。
つまり、もう拓真が帰宅しているということだ。
夕食も作らず拓真の帰宅まで寄り道をしていた事に文句を言われるかもしれない。


いや。文句ならいい。

拓真のことだ。
私が帰らないことに大騒ぎをしているんじゃないだろうか。
また変な妄想でも働かせているかもしれない。

しかもこんな風に、多分赤くなってしまった目のまま拓真と顔を合わせれば……
何も言われない筈が無い。


私はもう乾いてしまった涙の筋が残る頬をこすり、寒かったからとかゴミがどうのとか、何パターンもそれらしい言い訳を考えて。
とりあえず夕食は謝って、すぐにでも作らなきゃとか。


そんな事を考えながら慌てて自転車に跨った。
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