砂の鎖
「……そんな所で寝てると風邪ひくよ?」


拓真が、ソファで着替えもせずに眠っていた。

携帯電話がソファのすぐそばの床に落ちている。
一体何時ごろまであの人を宥めすかしていたのだろう。
やっぱり少し、面白くないようにも思えて眉を顰めた。


「拓真!」


今度は少し乱暴に声をかけたけれど反応はない。


「拓真! ちゃんと部屋で寝なさいよ!」


私は何度も声を掛けて起こそうとするけれど、よっぽど深い眠りに落ちてしまっているようだ。
拓真は微動だにせずに眠りつづける。


「もう! だらしないな」


私は溜息交じりにキッチンではなく仏間に向かい、押し入れから夏用の肌掛け布団を引っ張り出した。
まだ夜は少し寒い。
このまま寝てたらきっと風邪をひく。……もう手遅れかもしれないけれど。

そう思って、拓真にばさりと布団をかけた。

拓真は、やっぱり起きたりしない。

私は、ソファの前にそのままそっと、静かに座り込んだ。

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