砂の鎖
眠ってる拓真を見ることはあまりないな、と思った。


――おはよう。俺のあず。


そう言って、拓真が私を起こすことの方が圧倒的に多いから。

拓真は私よりも朝が得意だから、私が拓真を起こしたことなんて数える程度。
こんな風に、深く眠り込んでしまっている拓真なんて、見たことが無いかもしれない……

伏せられたまつ毛が頬に落とす影が意外と長いなと思った。


静かに息を潜め、私も微動だにせずに、拓真をじっと見つめた。


――俺はずっと、あずの傍にいるから。


静かな夜に、過去の拓真の声が響いた気がした。
ママが死んだ時、拓真は確かにそう言った。

あの時は、幼い私に懇願するかのように……泣いていたのは拓真だった。


――……もし、本当のお父さんに会えたらさ、俺のことはもういらない?


その時は、とても不安そうだった。

いつもはヘラヘラしてるくせに、寂しそうだった。
拓真は本当に、情けないし頼りないと思うのに……


――この世で一番大切なのは、あずだよ。


そうして、この人はいつも私を甘やかす。
その優しさに、甘えて、わがままを言って。


「ほんと、うざいのよ。拓真は……」


私は、何を言っても許してくれる拓真に甘えていた。
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