砂の鎖
だから高校の入学式で新入生総代表として壇上に上がった真人の姿を見た時、私はものすごく驚いた。
私立中学を受験する為に転校した真人が、こんな底辺の公立高校いることに。

挫折したのだろうかと思ったけれど、その理由はすぐに分かった。

本格的な夏が来る少し前。
全校集会で県大会の賞状を全校生徒の前で校長から受け取る凛とした真人の姿があった。
小学生の頃から足が速かった真人。
彼は陸上の為に、私立のエスカレーターを蹴ったのだと。

高校二年生に進級した時も、クラス分けの紙を見た私は『須藤亜澄』の横に並んだ『里中真人』の名前を何となく意識していた。


真人を“恋”なんていう、リアルな感情で見たことは無かった。
ただ、そんな風に私は、いつも真人を遠くから眺めていた。
私とは違う世界の人だと思いながら、ぼんやりと目を細めて眺めていたのだ。

四年生で転校してきた私と五年生で転校した真人。
同じクラスですらなかった。
会話を交わしたのは一度だけ。
友達の多い真人が私を覚えている筈も無い。


それでも私は真人に告白された時、一瞬、“ずっと”の意味を、はきちがえた。


そしてそれが、私が真人の告白を受け入れた理由だった。
小学生の頃から知っていて、あの頃から変わっていないように見える真人に、何故か安心感を覚えたからだ。


私はまだ、真人に恋をしているかと言われればよく分からない。
付き合うということもよく分からない。

それでも真人のことは嫌いではないのだろうとは思う。
そして、私はあんな風に真っ直ぐに笑える真人に憧れているんだ。


「でもどうして私なんだろう……」


独り呟いた私の声は、始まったばかりの夜に静かに溶けた。
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