砂の鎖
私はずっと、ママと二人で支え合って生きているつもりだった。


――あずのごはんが世界で一番美味しいわ


店で出す先附とおつまみを作るのは私の仕事で。


――あず~ファスナーあげてよ~


派手な彼女のドレスの背中のチャックを上げるのは私の仕事で。


――ちょっとあず。昨日最悪な客がいてさ……


子供みたいな愚痴を聞くのも私の仕事で。


――聞いて聞いて! すっごい素敵な人がいるの!


乙女みたいに頬を染めて惚気る彼女の話を聞くのも私の仕事で。


――あずがいてくれて良かった


ママを支えているつもりだった私。
けれどママは、私に何一つ大切なことを言わず、この世を去った。

ママが頼る相手として選んだのは、私では無く拓真だった。


『あんたなんていなければ良かったのに!!』


だから私はあの日、泣き叫びながらいなくなったママのことも、私を抱き締める拓真のことも、詰って責めたてた。


『大っ嫌い! ママも拓真も!! みんな大っ嫌い!!』

『うん……』


拓真は何も言わず、激昂する私をただ抱きしめていた。

私は、ママも拓真も、許せなかった。
腹立たしかった。

それでも、私は他に行く場所も、頼る人もいなかった。


ママの恋人と娘。そんな私たちは、私たちを結びつける人もいないのに、ぎこちなく二人きりで家族ごっこをはじめた。

私と拓真を、今も結びつけているものは一体何だろう……
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