砂の鎖
「あの薫さんがさ……」


縁側で、黙って赤い煙草の光を見ていた拓真はポツリと小さくママの名前を口にした。


「癌の告知されてからは禁煙してたよね」

「うそ」


その言葉に、私は目を丸くして拓真を見た。


「私と二人の時吸ってたよ。あの人」


それに、拓真は薄く笑った。


「あずに、知られたくなかったんだろうね……」

「……」


私はそれに、上手く答えることができない。


「あずに怒られるのが、薫さん一番怖かったみたいだから」


そう言って、拓真は目を細めてオイルライターを空に透かした。
部屋から漏れる光を反射して鈍く光る。

闇色の空には星が光っている。
ママが気合いをいれたいときによく着ていたジルコニアが散りばめられたベルベットのドレスの様だ。

調子が良くて自分に都合が悪い事はすぐに隠すところがある、子供みたいな人だった。


「……それで死んでちゃ意味ないじゃん。バカだよ。ママは」


私は、私を置いていったママが嫌いだ。

拓真は微笑んで、私の頭を優しく撫でた。
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