砂の鎖
廊下に出ればしとしとと降る雨の気配が身体にじっとりとまとわりついてくる。

図書室では、私は目の前の課題や本に気をとられ気が付いていなかったけれど、どうやら少し前から本格的に降り始めていたらしい。
教室に折り畳み傘が置いてあるから丁度いいと思いながら教室に向かった。


「さっきの話だけどさ」

「え？」

「弁護士か医者かって話」

「ああ」


麻紀は唐突に私に話題を振った。
もう流れた話題だと思っていた。

麻紀は、話題にそぐわないようなにやりとからかう様な笑みを浮かべる。


「旦那についてくなら医者じゃない？」

「……なるほど」


からかわれた筈のそれに、私は素直に頷いてしまった。
真人のお父さんは開業医だ。


「そう言えば真人、理系専攻するって言ってたな……」


元々真人は私立の中高一貫の進学校に通っていたのだから、医学部に進学するつもりなのかもしれない。


「亜澄も頭良いし、同じところいけるんじゃない？」

「……そーゆー進路の決め方もあるわけか……」


考えもしなかった。
真人とは付き合い始めたばかりだし、高校を卒業する頃まで付き合っているかどうかは分からない。
けれど、今後を考えるうえで一つの条件として、真人の存在を考慮してもいいのかもしれない。


「進路とか……まだ早くない？　ダルイな……」


麻紀はうんざりだと溜息を吐くけれど、その気持ちは私も同意見ではあった。
私たちには今“進路希望用紙”という表題がつけられたＡ４のプリントが渡されていて、それが無言のプレッシャーをかけてくる。

高校にも行くつもりが無かった私には関係が無いと思っていた話だった。
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