砂の鎖
「お前の亡くなったお母さんは女手一つでお前を育て上げた立派な人だろう。先日みえたお義父さんも若いのに随分としっかりされていたじゃないか。大体、男親は学校に来たがらない人が多いんだぞ。それなのにお前は本当に……突っ張ってばかりいないで素直になることも覚えたらどうだ」


当然のことの様に溜息を吐きながら言う佐伯。

反抗期だと拓真には言われるけれど、私にだって素直になれない理由の一つや二つはある。


「まあ……お前くらいの年ごろはそういうものだが、感謝の気持ちは忘れるんじゃないぞ」


それでもそんな私の心の機微まではさすがに分からないであろう佐伯は当然のように私を子ども扱いをしてそう収めた。


そして佐伯は、私が書いた二つの反省文の両方に受理を示す為に日付入りの印を押した。
よく確認して、とても慎重に。

初日に書いた反省文に今日の日付。
今日書いた反省文に初日の日付。

時系列をひっくり返して並べると、まるで事実を訴え怒っていた初日の私が三日間の生活指導を受けすっかり反省したかのように見える。


「佐伯先生さ、前からちょっと思ってたんだけど、私に甘くない?」


私は驚いてそう言えば、佐伯はやっぱり口角を歪めるように笑うのだ。
少し悪戯っぽく。


「教師も人間だ。そして私は数学の教師だ。数学の成績がいい生徒を贔屓するのは当然だろう」

「あはは」


そんな意外な堅物教師の一面に、私は思わず声を上げて笑ってしまった。
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