砂の鎖
「……真人」


角を曲がり切って拓真の声が聞こえなくなったところで、私は歩調を緩めた。


「余計なこと言わないでよ!」


そう言って真人を睨み付ける。
小走りでここまで来たせいで、私の息は僅かに上がっていたけれど、陸上部のエースにはなんでもない事だったようだ。真人は涼しい顔だ。


「元々挨拶には行かないとと思ってたから」

「は?」

「事実だろ?」


目を丸くして真人を見上げる私。真人は当然だと言わんばかりだ。
まるで、何事も無かったかのように。


「……もう別れたものだと思ってた」


私は溜息を吐きながら、自転車を引いて歩き出した。

真人は罰ゲームで私に告白をしたと言われていた。

それを周りも、真人自身も否定しなかった。

そしてその話を私が聞いていた事も分かっているのだから。それでも付き合い続けてると思えるほど私はバカじゃない。


「まだ別れ話をしたつもりはないけど」

「……そっか。付き合ってなかったのか」

「聞けよ!」


真人が声を荒げ、先を急ごうとした私の肩を掴んだ。
私はそれに仕方なく振り向いて、再び真人を睨み付ける。


確かにあの後、私はそのまま謹慎に入って、携帯電話も取り上げられて友人たちと連絡を取る事は禁止され、だから真人ともあれから話すのは初めてだ。

つまり確かに別れ話はしていない。

だからって何もかも今まで通りになんてなる筈が無い。
真人は私のことを、自分の周りに群がる女と一緒だとでも思ってたのだろうか。

暫く無言で私たちは見つめ合い、いや。にらみ合い。

犬の散歩をするおじさんが、少し不思議な顔で私たちを眺めながら通り過ぎていった。
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