LOVE SICK
二人が驚いた顔をして勢いよく振り向いた。


大きな洗面台の前でグロスを握りしめてる石野さんは今日の面談が終わったら食事にでも行くつもりだったのかもしれない。
それは決して悪い事ではない筈なのに、そんな彼女に苛つきが抑えられない。


「え……川井さん……」

「私が嫌だから仕事にいかない? 舐めてるの? いい加減にしてよ」


そんな理由で周囲に迷惑を掛ける身勝手な彼女が楽し気にしていることに腹が立った。

石野さんの顔が赤くなるのを冷めた瞳で見る。
冷めていたのは瞳だけで、心中は煮えたぎったように熱かった。


「……もう嫌! 対して私と年齢だって変わらないくせに、あんた偉そうでムカつくの! 斎木さんに色目つかっちゃってさ。うざいのよ!」


石野さんは私の登場に一瞬怯んだが口を開き出せば興奮したようで私への不満が爆発したかのように大声を上げた。

……でもその言葉はやはり身勝手だ。

斎木さんが彼女が仕事をしたくない事になんの関係があるの?
大体いつ私があんな人に色目を使ったっていうの?

ふざけないいで。

言いたい事は色々あった。
けどそれは関係無い。
そうじゃない。


「あたしがうざかろうがうざくなかろうが、貴方は契約を結んで仕事をしてるの! そんな女に斎木支店長だろうが誰だろうが、魅力を感じるとでも思ってるの!?」


そうじゃなくて、なんの関係もない周りの迷惑も省みない、責任感も何も無い彼女が許せなかった。


嫌な事なんて誰にだってある。
辛い事もどこに行ったってある。


そんな物をみんなが抱えていて。
それでも昼間は笑顔で頑張っているんだ。


田嶋君とだって、斎木さんがいなきゃ愚痴大会になる事はよくある。
ここにいる田中さんの悩みも今さっき迄聞いていた。

今は腹立たしいばかりだけれど、斎木さんと付き合ってる頃は、時々彼も仕事の悩みを私に漏らしていたし。

私には優しいばかりの、柏原さんだって、きっとそう……


みんな、何かを抱えて生きている筈なんだ。

絶対に自分だけなんかじゃない。


……それなのに……
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