恋するオトコのクリスマス
瞬は手にしていたナイフとフォークを下ろし、グラスの水をひと口飲んだ。


「いや、まったくの無関係。たしか……相手は二十歳そこそこで、子供のころから知ってて、やっと婚約まで漕ぎつけたらしい。ま、ロリコンって気がしなくもないが……ともかく、奴が機長になったのは実力だ。俺がなれないのも実力ってヤツだな」


瞬の言葉に美夏は泣きそうな顔をする。


「おいおい。言っとくけど、機長ってのは四十前後でなれるのが普通だぞ。別に、俺の昇進が遅れてるわけじゃない。高千穂キャプテンは特別なんだよ。あの人は天才だから。それとも、そういう特別なパイロットでないと嫌か?」

「そんなわけないじゃない。わたしは……瞬でないとダメなんだから」


美夏はうつむき加減で答えた。
そんな彼女を見ていると、つい、からかってしまいたくなる。


「もちろんわかってるさ。久しぶりに、制服姿でたっぷり楽しめるよう、スイートを予約してある」

「制服って……ホ、ホントに、部屋を取ってるの? でも、愛里は……」

「なんのために、親に頭を下げたと思ってるんだ?」


妻とふたりきりでひと晩過ごすため、というのは、年に一度くらいなら許されるだろう。
十年以上、思い続けた女性をやっと妻にしたのだ。ふたりの間に授かった子供は愛しいし、愛の結晶は何人でも欲しい。
だがそれ以上に、美夏への思いは増えても減ることはない。


「愛里とは明日、クリスマスを思いきり遊ぶつもりでいる。だから、今夜はおまえと過ごしたい。そうだな……婚約したころに戻って、ふたりでゆっくり楽しもう」

「瞬……」


そのとき、ふたりのテーブルにケーキが運ばれてきた。

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