恋するオトコのクリスマス
「志穂、いい加減にしろ! そんなこと、嘘に決まってる」

「なんで嘘って思うの!?」

「相手は東京からきた医者だろう? そんな男が、おまえみたいな田舎もん丸出しのガキに手ぇ出すかよ! 仮に口説かれてるとしても、カラダ目当てに決まってる」

「そ……それでも、いい。遊び人でも、プレイボーイでもいいの。久遠先生のことが……す、好きだから……遊ばれても平気よ」


黙って聞いていればずいぶんな言われようだ。

ふたりは恋人同士らしい。放っておいても大事にはならなそうだが、ただ、どちらもかなりエキサイトしている。もし、警察沙汰にでもなれば後々厄介だ。


「たっちゃんは、パリでもどこでも好きなトコに行けばいい! 四年近くも付き合ってきたけど、恋人同士って実感はほとんどなかった。今度は、傍にいてくれる人と付き合いたいのっ」

「なんだよソレ! 俺たち婚約してんだぞ。そう簡単に別れられると思うなよ!」

「……キャッ」


男が彼女の手を掴み、強引に引っ張ろうとしたとき――博樹はその手を押さえた。

ふたりとも驚いた様子でこちらを見る。


「こんばんは、志穂先生。なんか困ってるなら手を貸そうか?」

「くっ、久遠先生……どうして……」


イヴの夜だと言うのに、彼女は仕事帰りのような普段着のままだ。

博樹の勤めるクリニックは隣のビルで療育教室も運営している。そこで最年少のクラスを担当しているのが目の前の女性、保育士の吉住志穂(よしずみしほ)だった。

少しのんびり、ぼんやりしている感じだが、子供たちからは人気がある。
勤務場所が違うのであまり顔を合わせることはないが、取り澄ました美人というより、可愛らしく朗らかな女性だ。

だが……口説いたことはないし、自分に気があると感じたこともない。

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