恋するオトコのクリスマス
博樹はエンジンを止め、車から降りる。

食事は県庁近くの創作レストラン“十六夜”で済ませてきた。
オーナーシェフの那智とは知り合いで、彼は数年前、都内にある三ツ星レストランに勤めていた男だ。まさか、O市で再会できるとは思わなかったが……。
昔の自分を知っている人間に奈々子を会わせるのは、かなりの勇気が必要だった。

だが、奈々子は過去を強引に聞き出すようなことはせず、那智もまた、博樹の不名誉になることは口にしないでいてくれた。


(“十六夜”でレストランウエディングもいいか……。ああ、でも、奈々子の実家にルールがあったら、勝手に決めるのはヤバイかな)


奈々子からもらったばかりの手作りのマフラーに頬ずりしつつ、博樹は小走りにホテルのロビーへと向かう。

そのとき――。


「だから、同じ病院で働いてる……久遠博樹先生と付き合うことにしたって言ってるでしょ!!」


耳に飛び込んできた自分の名前に、博樹の足はピタリと止まった。


駐車場の隅、ふたりの人影が見える。

ひとりは女だ。
先ほど博樹の名前を口にした女に間違いない。もちろん奈々子の声とは違う。実を言えば、博樹はその声に聞き覚えがあった。

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