恋するオトコのクリスマス
嬉しそうな神谷を見れば、ついつい愚痴のひとつも零したくなる。


「いえ、そういうわけじゃありませんよ。家族は田舎で正月を過ごすんで……今夜のデートはついでのようなものです。こういうときでないと、子供を預けて夫婦ふたりで、なんて無理ですから」


神谷は閉口するどころか、よけいに惚気始める。


「高千穂キャプテンは実家の用事でしたね? 帰りは明後日の始発――シフトの関係で私もご一緒させていただきます。おかげで、明日一日家族で過ごせることになりました」

「それはよかった。私は実家で寂しいクリスマスですけどね」

「またまた。キャプテンも可愛い婚約者を呼んでるんでしょう? 実家を抜け出してとか、いろいろ手段はありますし……。なんたって、一番楽しい時期ですからね」


よっぽど楽しい婚約時代を過ごしたのだろう。
神谷はひとりで笑って、ひとりで照れている。

そんな彼を横目で見つつ、和也はこっそりため息をついた。

実家から連絡があったとき、歩美は一緒に行くと言ったのだ。だが、和也が断った。


『どうして行ったらダメなの? わたしが一緒だと、そんなに恥ずかしい?』


財産がどうとか、学歴がどうとか、親がいないとか……正式に婚約したあとも、和也の両親は歩美や歩美の兄、光太にいろいろ文句を言ってばかりだ。
この上、実家に連れて戻ったら、これ幸いとばかりに歩美を苛めるだろう。

歩美に、あんな親がいる和也との結婚はやっぱり無理、と言われそうで怖くてならない。
しかも実家に戻れば親だけでは済まない。倒れたという祖父も父と遜色ない尊大さだ。口うるさい親戚は掃いて捨てるほどいて、歩美を傷つけることを平気で言うだろう。

和也のテンションは下がる一方だったが、着陸準備に入ればそうも言ってはいられない。
彼は一瞬で表情を引き締める。


「さて、そろそろ、アプローチの準備に入りましょうか」

「ラジャー」


神谷も見事なまでに切り替えて応じる。

これで着陸する空港が羽田なら嬉しくて堪らないのに、という思いが胸をよぎり……。歩美の笑顔とともに、心の奥に押し込む和也だった。

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