水泳のお時間
9時間目
小さい頃から引っ込み思案だったこの性格と、

何でも自分ひとりで決断して行動することが出来ないこの心、

そして高校生になっても泳げないこの体が、ずっとコンプレックスだった。


自分で自分を好きになってあげる事もできないのに、そんな自分を誰かに好きになってもらいたいと思ってしまうわたしは、

きっとすごく矛盾してて、独りよがりだと思う。


分かっていても、今まで無意識のうちに積み上げてきてしまった自分への劣等感を、今すぐ抜きとって崩せるような、そんな勇気や度胸もなくて。


一年生のときから校内で瀬戸くんを見かけるたび、

押し寄せるこの想いの理由には気づいていても


でも、ずっと心の奥底に押し込めて、閉まってた。


前に進もうとしない事で、わたしは傷つくことなく、今日まで来ることが出来たけど


生まれて初めて、瀬戸くんと一緒にプールに潜り、ゴーグル越しから水の世界を目にしたあの日、

そこで見た景色があまりにキレイでビックリして、感動したことを今でも覚えてる。


そのとき、ふと思った。


わたしは今まで、自分には出来ないと最初から決め付けて生きてきただけなのかもしれないって。


時には自分から踏み出してみないと気づけないことも、あるんじゃないかって。


だから、それが例えどんなに難しいことだとしても、

最後までやらないで諦めることはもうしたくないって思った。


小野くんが言うように、今すぐ一人前に泳げるようになるなんて事はムリかもしれない。

だけど、それでもきっと、去年までのわたしとは明らかに違うと思うから。


そしてもし…


もしも本当に少しでも泳げるようになれたなら、変われる気がして。

そのときに初めて、

わたしは自分とちゃんと向き合うことが出来るような、そんな気がして。


…瀬戸くんに「好き」って、言える気がした。
< 224 / 300 >

この作品をシェア

pagetop