水泳のお時間
「ねぇ知鶴。もしかしてその赤いのキスマークじゃない?」

「えっ」


四限目の体育の授業を終えて、いつものように友達と更衣室で制服に着替えていると

同じクラスのアヤちゃんに突然尋ねられ、わたしの心臓が思わずギクリとした。


そのままジッと首元を覗き込まれそうになり、慌ててブラウスをかぶり肌を隠そうとしたわたしに

今の会話を聞きつけたマキちゃんがとたんに目を光らせて、こっちに走ってくる。


「何?!何の話?!」

「マキー!あの知鶴にもついに男疑惑!」

「まじ?!つーか誰よ?!うちらの知鶴にとうとう手を出しやがった身の程知らずな男は?!」

「マ、マキちゃん」

「いいから!白状しなさい!!」


マキちゃんのまるで息をあらげるような声に

更衣室内の視線がわたしたちに集中して。


恥ずかしくなったわたしは、違うとはっきり言葉にする勇気はなかったけれど

とっさにフルフルと首を横にふることで、その場をごまかした。


正直、こういう会話はやっぱりまだ慣れないし、恥ずかしい…。


でも瀬戸くんとわたしだけの、些細なヒミツが出来たような気がして嬉しいような、

そんな気持ちも確かにあって。


後ろで騒いでいるマキちゃんたちの目を盗んで、

わたしはこっそり自分の胸元を見下ろすと、思わず笑顔がこぼれた。


…昨日のことを思い出すだけで、どんな事もがんばれるような気がする。
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