水泳のお時間
「……?」


あれ?


…気がつくと、何もしていないのに、わたしの体は今もまだ水に浮いているような気がして。わたしはぼんやりと目を開く。


そしてそのままゆっくりと顔をあげてみたその時、

……なんとわたしの体はまるで瀬戸くんにしがみつくように抱きついていて、ビックリしてしまった。


「!ごっ、ごめんなさい…!」


そう言って、あわてて瀬戸くんから離れようとする。


だけど瀬戸くんは、そんなわたしの腕をつかんで止めたかと思うと、

すぐにわたしを水面から抱きあげ、プールのふちへと座らせてくれた。


そして今も戸惑った表情のわたしの口をふさぐ代わりに、

瀬戸くんは黙って自分の唇に人さし指を添えて見せたかと思うと、そっと顔を近づけた。


「ごめんね。怖かった…?」


大きく息を繰り返すわたしを上から見下ろして、

瀬戸くんがまるで小さな子供をいたわるように尋ねる。


そしててわたしの頬に手を伸ばして触れたかと思うと……切ない顔で見おろした。


「怖い思いをさせてごめん。ただ今日はどうしても桐谷の意志を確かめたかった」

「……?」


意志…?


しばらくして、わたしがそう繰り返して尋ねると、

瀬戸くんは少し頷いて、視線をわたしからプールへと移した。


「今までは泳いでいる途中、もし桐谷の身に何かあっても、俺が傍にいて、見ていてやれた。すぐに助けてあげることが出来た。
もちろんそれが俺の役割だし、義務でもあるけど、でも桐谷にとっての最終目標はそこじゃないだろ?」

「!」

「水泳は本来一人で泳ぐものだから。もしも桐谷が溺れるかもしれないと、そう思った時に、それでも桐谷は、俺や他の何かに頼ったり、すがろうとすることなく、自分の力で泳ごうとするのか、その意志を確かめたいと思った」


瀬戸くんの言葉に、わたしはまるで考えていたことを射抜かれたような気がして、頷きかえすので精一杯だった。


しばらくして、わたしは胸に当てていた両手を動かし重ね合わせると、それをギュッとにぎりかえす。
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