隣の女
「あっ!いる、いる。
 やっぱりいた。」

混み合う車内をすり抜けて

朝子は、乗り込んでくる
ハデージョに近づいた。

「おはようございます。速水さん!」

ギョッとしてハデージョは振り返った。

朝子の顔を見ると、
その動揺は隠せない様子だった。

しかし、パッと気持ちを

切り替えたのか

満面の笑顔で

「あら~、おはようございます。

 偶然ですねぇ。

 山根さんもいつもこの車両に?」

朝子は、一瞬どう答えようかと迷ったが、

「いいえ、今日はたまたまこの電車に‥。」

少しほっとした様子でハデージョは

「あ、そうなんですか‥。

 山根さんはどちらから?」

「私は二つ先の駅からです。」

「あ、あぁ。そうなんですか‥。」

朝子は少しからかってやろうと

いう気持ちになり、

「速水さんの事務所もたしか

 この駅ですよね。

 ご自宅のほかに事務所もお持ちだ

 なんてすごいですね。」

「とんでもない。事務所なんて

 立派なものではないんです。

 ボロボロのアパートをデザインの

 仕事をしている友人と一緒に

 借りているだけなんですよ。」

期待していた答えとは違う

あまりに素直な言葉に

少し意地悪な想像をしていた

朝子はまたもや居心地の悪い思いを

することになってしまった。
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