重ねた嘘、募る思い

8.広がる不安

 
 仕事の合間に来月入職してくる新人看護師の研修用資料作成の手伝いをしていたらあっという間に三月の終わりが来た。

 私は二年目になるので一年間指導に付いてくれていたプリセプターがいなくなる。
 そして来年の入職三年目には自分がプリセプターの役割につくことになるんだと思ったら今から恐ろしくなる。
 まだ右と左の区別がようやく付いたくらいのひよっ子なのに、来年には指導する立場になるだなんて考えたくなかった。
 
 今日で医学生達の実習も終わる。
 五月には看護学生が続々と実習に来る予定だ。
 
「あっという間だよねえ」

 ぼそりと独りごち、病院へ向かう緩やかな坂道を上ってゆく。
 最終日に日勤で良かったのか悪かったのか。
 トレンチコートのポケットの中の携帯が震えて取り出すと青野先生からの電話だった。

『おはよ、今日の送迎会で渡す花を予約するの忘れちゃってさ、申し訳ないんだけど着替える前に下の花屋で予約してきてくれないか』
「急に言われても……どんな感じがいいのかイメージとか」
『藤城の好みでいいよ。店の人には俺のPHSの番号伝えておいて。悪いな』

 出るなり用件だけまくしたててすぐに切れてしまった。
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