重ねた嘘、募る思い
 
 青野先生、当直明けだけど送迎会の幹事だから当直用ベッドで仮眠とってそのまま参加するって昨日言ってたなあ。
 すっかり青野先生のシフトも頭に入ってしまっているのがすごいと思う。
 それというのも頼んでもいないのに毎日メールで寄越すからだ。
 青野先生のお見合いの話はようやく落ち着いたようで彼女役も終わりでいいはずなんだけどなんだかんだ言ってメールや電話は続いている。別に嫌じゃないし楽しいからいいんだけど。

「きゃーっ」

 どこからともなく女の人の高い叫び声が聞こえてきて眠かった頭が一気にクリアになった。
 私の前を歩いていた人達の足が止まり、ざわめきが広がっている。
 何事かと思って駆け寄ってみると、女性が横向きに倒れているのが見えた。
 誰一人その女性に近づこうとはせず、少し離れて様子を窺いながら小さな声をかける程度。

「どいて!」

 目の前の人をかき分けてその女性に近づくと、うちの病棟に実習に来ている医学生達の姿があった。やっぱり他の人達と同じで不安そうに見ているだけで近づいてこようとはしない。
 だけど一瞬目があった醍醐くんだけが近づいてくるのが見えた。
 着ていたトレンチコートを脱ぎ、ポケットから携帯を取り出してパスコードを解除し、醍醐くんに投げつける。
 そのコートを女性の腹部から下にかけると、知らない人が倒れている女性の足下に同じように自分のコートを掛けてくれているのがわかった。
< 167 / 203 >

この作品をシェア

pagetop