重ねた嘘、募る思い
 
 今ここが誰もいない医局だったから私は青野先生に食ってかかることができたんだ。  
 それなのにまさか醍醐くんの名前を出されるとは思ってなくて、ドキリと心臓が跳ねた。
 自分の机に座って頬杖をついた青野先生がしてやったりといった顔をしているのがすごく腹立たしい。
 わなわなと身体が震えるのがわかって自分が冷静さを失っていることに気づかされる。

「好きなんでしょ? 彼のこと」
「――なっ」
「見ててすぐわかるよ。藤城の視線はいっつも彼を追っかけてたし」
「嘘!」

 と、楯突いたものの自信はなかった。
 目で追っちゃうのは無意識だもん。しょうがないじゃない。
 いっつも、と強調して言われて顔がかあっと熱くなってしまう。きっと今の私の顔は真っ赤になっているに違いない。それを想像しただけで恥ずかしさでどうにかなりそうだ。

「醍醐くん、三日前に俺と彼女がデートしてる時、声かけてきたんだよ。えらい剣幕でさぁ、普通実習先のドクターに外部で声かけるなんてできなくない?」
「……確かに」

 私だって実習先の看護師を見かけたらこそこそと隠れたものだ。
 向こうは覚えてないと思うけど脊髄反射で逃げてしまう。だって怖いんだもん。

「彼、なんて言ったと思う? 藤城さんと結婚するんじゃなかったのかよって喧嘩口調な上にタメ口だよ? 信じられる?」
「なんでそんな話になってるのっ?」
「そういう話を俺が振ったから、かな?」

 ふっ、と意味深げに笑みを称える青野先生を見ていやな予感しかしなかった。
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