重ねた嘘、募る思い

10.最後のチャンス?


 お幸せに。
 その意味が全くわからなかった。
 
 醍醐くんがあの時言い掛けたことと『お幸せに』じゃ話がつながらない。
 きっと最後の言葉はとっさに出たものだと思ってもそれを確認することはできなかった。
 用がないのにメールをする勇気が私にはなかったから。


**


 ライブの翌日、青野先生の結婚が決まったことを綾菜から聞かされて目が飛び出るじゃないかと思うくらいびっくりした。
 しかもお相手は見合いの話を断り続けていた部長の娘。
 しかも少し前から噂になっていたと言われ、頭が真っ白になった。


 青野先生とはしばらく勤務が一緒にならず、数日後にようやく掴まえてどうしてそうなったのか本人に問いつめた。

「話してみたら妙に会話が弾んじゃって」

 照れくさそうに後ろ頭をかきながらにやける青野先生には言葉を失う。
 大げさにため息を漏らすと「まあまあ」といなされ、かっと頭に血が昇った。こんなことになって冷静でいられるものか。

「恋人のフリをした私の意味は?」
「ごめんごめん、藤城とは別れたって彼女には話したから」
「そこじゃなくて! フリなんてなんの意味もなかったんじゃない」
「いや、そんなことない。藤城を見て火がついたって彼女から猛アタックされたし」
「意味わかんない!」

 でれでれしちゃって、腹立つとしか言いようがない。
 道理で全然メールも電話もこなくなったはずだ。自分ばっかり幸せになっちゃってなんだかすごくムカつく。
 
「だけどまあ、何度も焚きつけておいたから許してよ。彼とはうまくいってるんだろう?」
「は?」
「醍醐一真」
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