愛してるの代わりに


電話を切って、慎吾は大きく息を吐き出した。

脳裏に浮かぶのは、まるで小動物のような可愛らしい動きをする幼馴染の姿。

「まさかあんな言葉かけてもらえるとはなあ……」




どんな時でも私は慎くんの味方だよ。




「俺の気付いてほしい気持ち、何も言わずにわかっちゃうとか有り得ねぇっつーの。アイツ一体何者だよ」




正直、東京での生活にはまだ馴染めていない。

初めてのドラマ撮影にも四苦八苦している。

本当は逃げだしたい。

誰かに愚痴のひとつでも言いたい。

でもそれを言ってしまったら、もうこれ以上頑張れないような気がして言い出せなかった。




そんな自分の気持ちを見透かしたような雛子からの言葉。

送ってくれたノートから感じる、励ましの気持ち。




コンコン。

控室のドアがノックされ、マネージャーが顔をのぞかせる。

「もうすぐ本番よ。あら? ずいぶんご機嫌ね」

「え? 別に普通だけど」

「そう? 私にはいつもより晴れやかな顔に見えるわ。ま、タレントの機嫌がいいのは良いことですけど」




よし、頑張ろう。

役者の顔にスイッチを切り替えて、慎吾は控室から勢いよく飛び出した。


< 21 / 92 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop