愛してるの代わりに
「崎坂さん、ちょっといい?」

職場の先輩である中塚に呼ばれたのはその日の終業前である。

「今日、これから用事ある?」

「いえ、今日は真っ直ぐ家に帰る予定です」

「ちょっと話したいことがあるんだ。これから食事でも一緒にできないかな?」

「……わかりました」

今ここで話せることではないのだろうか?

初めて受ける中塚からの誘いに多少の疑問も抱きつつ、頷いた。




中塚に連れられて辿り着いたのは一見すると普通の一軒家。

しかし入口には店名が書いてあり、レストランであることが窺える。




「こんばんは~」

「いらっしゃい。奥の席、用意してますよ」

どうやら中塚は常連らしい。

カウンター越しに見える調理場からシェフの声が掛かる。

雛子も軽く会釈をし、中塚に続いた。




外観と同じく、家庭的な料理がテーブルに並ぶ。

「うわぁ、美味しい……」

「だろ? 決して豪華な料理ではないんだけど、味は間違いないんだ」

「はい。でもこの家庭的なところがポイント高いですよね。今度は別の物を頼みたくなります」

「うん……。今度も僕が連れて来れるといいんだけどね」

「……? 中塚さん、何か言いました?」




中塚が神妙な顔をして箸を置く。

その姿につられるように雛子も箸を置く。

思わず背筋も伸びるようだ。
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