愛してるの代わりに
「おはよう、雛」
「おはよー」
トースターから焼きあがった食パンを取り出し食していると、何やら強い視線を感じた。
「何? どうしたのふたりとも」
「よかったわねぇ、雛」
「え? 何のこと?」
「慎くん。付き合うことになったんだって?」
あまりの衝撃に、口の中の食パンが喉につかえそうになる。
急いで手元にあったココアを飲みほし、大きく深呼吸。
娘の動揺にも両親はニコニコ笑ったまま。
いや、雛子からすればニヤニヤしているようにも見える表情だ。
「実は今朝、慎くんが訪ねてきてね。『雛と付き合うことになりました。事務所やCM契約のこととかもあってすぐにってわけにはいかないけど、ちゃんと結婚も考えてます』って報告を受けたのよ~」
「お父さんもお母さんも慎くんみたいな息子が欲しいって思ってたから、願ったり叶ったりでな。突然でびっくりしたけど、慎くんなら安心だ。よかったなあ、雛」
「ホントによかったわあ、ねえ、お父さん」
万歳三唱でも始まりそうなふたりの歓迎っぷりに、「私そんな話聞いてないですけど」と水を差すような言葉を言うことができず、愛想笑いを浮かべるしかできない。
「で、その慎くんはなぜそんな朝早くに家に?」
「なんかねぇ、今日お休みだったはずなのに急に仕事が入ったんですって。だから急いで帰らないといけないって。雛にも会いたがってたけど、寝てるって言ったら起こすのも可哀想だからって」
「そこは起こしていただきたかったよ」
「何?」
「ううん、何でもない……」
ああ、朝っぱらから頭が痛い。