婚約者の憂鬱
「アニス~。これ、女王付きのエレノアに渡してくんないかな?」
「はいはい。必ず渡すから安心なさいな。ただし、返事までは面倒みないわよ」
北宮殿にある兵舎。
ジェラルドは、騎士や文官たちに囲まれるアニスを遠巻きに眺める。
「……なぁ、カイン」
「何ですか」
相変わらず涼しい顔で、分厚い書物に目を通している。
「何で、幽霊の仕業じゃないってわかったんだ?」
「始めからです。話を聞いた時点で、八割がた人の仕業だと思ってました」
「そんなに早く?」
アレックスが身を乗り出して、会話に交ざってくる。
「そもそも幽霊の正体なんて、そんなもんですよ。勝手に物が動いたり、話し声が聞こえたり。けど、普通に考えてみれば実体のない幽霊より、生身の人間の方が犯人である確率は高いでしょう?」
「むむっ。確かに」
唸るアレックスを横目に、黒衣の司祭は半眼で告げてくる。
アニスの報告書には、城の見取り図とセナンクール建国前後の歴史が簡単にではあるが記載してあった。
そこからでも、噂話の王女が実在していた証拠は発見できない。